その後姿を、ただ眺めていました。





 End of summer 





からころと鳴る下駄の音や賑やかなお囃子の音。
立ち昇る蚊取り線香の煙と、煩いくらいの蝉の声。
ゆっくりと日が落ちて紺色に染まり始めた空と、薄く熱気を帯びた風。

「どうしてかな?」

鈴を転がすような声が、僕に問いかけた。
縁側に座った彼女の白いワンピースの裾が、ふわりと風にあおられる。
薄闇に染まり始めた世界の中で、その白さはぼんやりと浮かびあがるかのようで、
僕はほんの少し怖くなって目を逸らした。

「ねぇ、どうしてだと思う?」

答えない僕に焦れたのか、彼女は覗き込むようにして問いかけてきた。
耳の後ろで2つに結われた黒髪が、さらりと音を立てて彼女の肩を滑り落ちる。
その軌跡を目で追いながら、問いかけの意味を求めた。

「なにが?」

僕が答えたのが嬉しかったのだろうか、彼女は瞳をやわらかく細めた。

「どうして、夏の終わりは寂しいのかな?」

鈴のような声が言葉を紡ぐ。
爪先に引っ掛けただけのサンダルを揺らすようにして、彼女は空を見上げた。
夕焼けと宵闇が溶け合いながら、静かに混じり合っている。

「季節の中で、夏の終わりだけがいつも寂しい」

歌うような声だった。
日に焼けてなお白いその肌と、その肌よりも白いワンピースと。
薄闇の中で見る彼女は、まるで人ではないもののよう。

「ねぇ、どうしてだと思う?」

最初と同じ問いかけを口に乗せて、彼女はこちらを向いた。
闇と同じ色を湛えたその瞳に、喉の奥の言葉を飲み込む。
答えなんて持ち合わせていなかった。
言い様のない寂しさを感じて、そしてそれを持て余していたのは僕も同じこと。

「僕にも、わからないよ」
「…そう」

一言、落胆を淡く滲ませた言葉をため息にとかすように呟いて、彼女は立ち上がった。
夕闇の中で、白い裾が踊るように揺らめいて。
振り返った彼女は、やわらかな笑みを浮かべていた。
こんな表情は、知らない。

「また、来年、ね」

くるりと後ろを向いて、彼女は軽やかに駆け出した。
闇の中に白い裾がふわふわと踊る。
それが夜の中に溶けて消えた頃、僕はそっと目を伏せた。
そして唐突に理解する。

「僕が寂しいのは、君がいなくなるからだ」

そうして呟いた言葉は、誰にも届かないまま風に乗って。
明日、君は街へと帰る。
いつものように、僕を置き去りにして。





そしてまた引き止めることも出来ず、夏が終わる。




















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ヤマもオチもない話。
夏の終わりのあの独特の寂しさを書きたかったんですけど…。
大学生になってからあまりそう感じなくなったのは、
夏休みが8〜9月になったせいでしょうか。

2004/09/02/




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