燃えるように、咲く。
「
彼岸花
」
黄金色に色付いた田の縁を彩るように、赤い花が咲き乱れる。
西へと傾き始めた太陽がやわらかく辺りを照らして、風が全てを揺らしていく。
ああ、またこの季節が巡る。
1945年、8月15日。
たくさんの人の命が失われた太平洋戦争は、日本の無条件降伏という形で幕を下ろした。
わたしの祖母の元に祖父の戦死の通達が届いたのは、彼岸花が咲いた頃だったという。
赤い彼岸花が咲き乱れていたの、とどこか遠いものを見るような目で祖母は言った。
祖母と祖父は幼馴染だったらしい。
あの頃には珍しく、恋愛結婚だったと聞いた。
「本当に「筒井筒」のようだったのよ」
そう言いながら、祖母は幼いわたしに結婚式の写真を見せてくれた。
そこに写っていたのは、今よりもずっと若い祖母と、写真でしか知らない祖父の姿。
白無垢と羽織袴を着た二人は、真面目な顔をしていたけれど、それでも幸せそうな雰囲気が感じ取れた。
「おばあちゃん、きれい」
わたしがそういうと、祖母はやわらかく顔を綻ばせて、ありがとうね、と言った。
お世辞でもなんでもなく、写真の祖母は美しかった。
「この3ヵ月後に赤紙が来たの」
皺々の手でそっと写真をなでながら、祖母はいつもどこか遠くを見ていた。
この話をするときはいつもそうだ。
平和な時代に生まれたわたしには想像もつかないけれど、当時は珍しいことではなかったらしい。
皆が戦場に行かなければならない時代だったのだ。
祖父は、南方へと向かった。
向かった先から、何通か手紙も届いたと言う。
そのどれも祖母のことを案じる内容だったそうだ。
そのうち手紙が届かなくなり、戦争が終わり、夏が終わっても祖父は帰らなかった。
「戦死という通達が来たのは、ちょうど今頃だったねぇ」
やわらかく揺れる彼岸花を見ながら、祖母は言う。
「遺骨も何もないのにね、死んだなんて」
信じられないでしょう?
どこか遠くを見ながら、穏やかな声で。
「でも何年待っても、帰ってこないの」
そう言って悲しそうに笑う祖母は、まるで少女のようだった。
あの写真の、白無垢を着た。
「おばあちゃん、」
「もう何年も、待っているのに」
皺のよった細い指が、優しく写真をなでる。
「帰ってこないの」
伏せた祖母の瞳に、涙はない。
泣いて泣いて泣きつくして、もう涸れてしまったから。
視線の先には、揺れる彼岸花。
私と同じくらいの年の姿の祖母が、花の中で泣いている。
泣けない祖母のかわりに、泣いている。
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戦争を知らない私がこんな話を書くことはどうなのかと考えもしたんですけど。
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