叩くように音を奏でる。
出来るなら、音の海に溺れてしまいたかった。
「 Je tu vous 」
白鍵を押せば、澄んだ音が波紋のように広がる。
何も考えないで、指が覚えているままに音を追っていく。
降り注ぐ雨のように、音が部屋を満たしていく。
何も見えない。
ただ、目の前にある鍵盤を指でなぞっていくだけ。
何も聴こえない。
ただ、自分の指から生まれる音だけを拾って。
奏でているのは、甘い甘い恋の歌。
それなのに、生まれる音は切なさを帯びて広がっていく。
「奏者の気持ちを音は反映する」
そう言って笑ったあなたを思いながら。
一曲弾き終わるのと同時に次の曲へ。
終わらない音。
それは、終わりを知らない想いと重なって。
泣きたいような気持ちを、奥歯で噛み締めることで我慢して。
気持ちをぶつけるように音を奏でる。
何も考えないように、頭の中も音で満たしていく。
頭の中が音だけになってようやく、わたしは指を止めた。
軽く息が上がっているのは、久しぶりに弾いたせいだろうか。
白鍵の上に落ちた涙、ひとつ。
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タイトルはサティから。
楽器を弾く時って頭空になりますよね?
2005.05.16.
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