この感情を、何と呼べばいいのだろう。





「 雪待空 」





切欠は些細な事だった、筈だ。
思い出せないのだから、おそらくそうなのだろう。
趣味だとか、話題だとか。
そういうコミュニケーションの取っ掛かりが、偶然かちりと噛みあった。
その程度の切欠。
ほんの少しの好意を持つには、その程度で十分。
そう、“ほんの少しの好意”。
「知り合い」に抱くよりもほんの少しだけ色付いた、淡い感情。
色付き始めた桜のような、その程度の淡い淡い好意。
わたしが抱いた感情は、その程度のものだった筈なのに。

「どこで間違ったかなあ」

壁際のソファーで、頭を抱える。
広い窓に面した廊下は、午後の日差しをいっぱいに浴びて暖かい。
影と光のコントラストを眺めながら、ため息を1つ。
窓の外を通り過ぎていく人影に、ここにいない人の面影を追ってしまう。
背格好だとか、髪の色だとか。

「(…あ)」

道行く人の、後姿。
似ている、と感じてしまった自分を思わず恥じる。
ほんの些細なことで思い出してしまう、なんて。
初恋を知ったばかりの乙女じゃあるまいし。
そう自分を自嘲しながら、それでも考えることをやめられなかった。

ふと、向けられた笑み。
何の気なしに向けられた笑顔に、なんとなく嬉しくなって。
話しかけられて、また嬉しくなった。
話があって、言葉を交わして、時折向けられる笑顔に、また嬉しくなって。
もっとその笑顔が見たくなった。
もっとその笑顔を向けてほしいと、思ってしまった。

「でも、恋じゃない」

目を瞑って、薄い瞼越しに光を感じながら呟く。
冬間近の太陽は、昼間でもどこか薄ぼんやりとしている気がした。
足元をなでる風の冷たさに、閉じていた目を開く。
けぶるように晴れた空。
恋と呼べる程の執着は、正直に言って、ない。
焦がれるようなあの熱情を、わたしは彼に対して感じていない。
きっと彼が別のひとのものになったとしても、
一月も経たない内にわたしは笑って祝福を言えるようになるだろう。
その程度の、熱しか持たない。

「恋とは、呼べない」

それでも、好意と呼ぶには、濃くなりすぎてしまった。
彼が別のひとのものになったとしたら、酷く寂しく、哀しく、感じる程には。
想像だけでここまで落ち込めるのだから、確実だ。
それ程には、育ってしまった。
あの、淡く色付いた感情は。
焦がれるような熱情はなくとも、チリリとした熱を、確かに感じているのだから。

「どこで、間違ったかな…」

冷えた指先で、唇に触れた。
乾いた粘膜と冷え切った空気。
もうすぐ、雪がちらつくようになるだろう。
雪が降ってすべて白に変わるように、感情もリセット出来たなら。
そう思う反面、わたしは雪の下で春を待つ植物の強さを思う。
春の訪れと共に萌え出ずる、あの若々しい緑を。

わたしの感情は、枯れるのだろうか。それとも。





雪を待つ空の下。
わたしは、この曖昧な感情につける名前を探している。




















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わかるひとは笑うといいと思います。(笑)

2005.11.29.

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