砂のように、水のように、さらさらとこぼれおちるもの。
失って初めて、気づくもの。
「
しあわせ
」
「ぬるま湯に浸かったような」という表現がある。
今までの状況を例えるなら、そんな表現がぴったりくるのだろう。
のぼせもしない、寒くもない、とろりとした温度。
それが何より大切か、知っていたはずなのに。
鳴らない携帯と、だいぶ前にログインしたきりのメッセンジャー。
心の奥に冷たい氷水を流し込まれたような気がする。
いつの間にか何の根拠もなく、離れても大丈夫だと思い込んでいた。
あの日離れるときに零れた涙の訳は、寂しさだけではなく不安からでもあったのに。
いつからこの安寧に溺れてしまっていたんだろう。
きちんとお湯をわかして、インスタントじゃないコーヒーを淹れた。
少し遠いコンビニまで行って、お気に入りのデザートを買った。
愛読してる雑誌を買って、好きなモデルのページを開いた。
お気にいりのアーティストの、発売されたばっかりのCDをかけた。
天気は暑くもなく、寒くもなく、程よく昼寝日和。
夕飯の準備はもう出来てて、メニューは大好きなカルボナーラ。
いつもなら至福でとろけてしまいそうな時間なのに。
それなのに、何故だろう。
哀しくて、痛くて、寂しくて、ちっとも幸せなんて思えない。
甘いチョコレートを口に入れても、美味しくない。
1週間鳴らない携帯。
送ったまま返事のこないメッセージ。
ベッドの上で、ぽつんとだんまりを続けている。
パソコンのメールだって、何度問い合わせしても無機質な返事だけ。
香ばしい匂いをしてたコーヒーは、もう冷たくなってしまった。
デザートは手を付けないまま、クリームがとけて情けない姿を晒してる。
雑誌の上には、ぽつぽつ、涙の後。
CDはもう5周目。
天気は曇り空に変わって、今にも泣き出しそう。
夕飯の時間なのに、全然お腹がすいてない。
チョコレートは一粒しか減らないまま、やわらかくなってしまった。
指についたチョコを舐めても、とけかけた甘さは舌に優しくない。
日常の中から、「あなた」が姿を消しただけ。
構成するものは何一つ変わってやしないのに、
どうしてこんなに不協和音を奏でているんだろう?
大好きだったものたちが、色褪せてしまったのはいつから?
「あなた」の存在が、欠かせないものになったのはいつから?
携帯電話は、まだ黙ったまま。
パソコンのメールも、返ってくるのは無機質な返事ばかり。
そして返事がないまま、また一日が終わる。
ぬるま湯の中で、わたしは何を失ったのだろう。
何よりも大切だと思っていたのに。
あなたの欠けた日常は、セピア色のまま空回りしているよう。
こうなって初めて気づくなんて、何て愚かなんだろう。
わたしの幸せは、あなたの存在だったのに。
砂のように、水のように、今、わたしの手から零れ落ちようとしている。
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実は実話だったりする。(笑)
2007.08.30.
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