バカみたい、って、自分でも思うよ。





重苦しく広がる鈍色の空。
冬特有の、雪雲を見上げて少しだけため息をつく。
初雪が降るかもしれない、という天気予報が、脳裏に浮かんだ。

「降ればいいのに」

降れば心が騒ぐ。いい意味で。
そうすれば、少しの間でも気が紛らわせられるかもしれない。
赤と緑のクリスマスカラーに彩られた街は、今の自分には騒がしすぎて。
例年なら心地よいはずの喧騒も、今年は寂しさが募るだけだ。

「降ればいいのに」

もう一言つぶやいて、ブーツの足を踏み出した。
雪が降れば、それはそれで"ホワイトクリスマス"とか言って騒ぐのだろう。
喧騒自体は嫌いじゃない。どちらかというと好きなほう。
でも、傍にいる人がいない冬は、寒すぎる。
いままでは平気だった。
繋いだ手の温かさも、傍にいる気配の優しさも知らなかったから。
友達と一緒に飲んで騒いで、"寂しいクリスマスだね"なんて笑い飛ばしてた。
いつから、わたしは。





お気に入りのブーツ、シンプルなコート、おそろいの指輪、きれいな色のマフラー。
大好きなコーディネート。
雑貨屋さんでふかふかのかわいいクッションを買って、
セールになってた優しい色をしたベロアのスカートを買って。
それから、きれいな色のルージュと、いいにおいのする香水も。
お気に入りのお店の、甘い香りがするキャラメルマキアート。
クリームとキャラメルシロップがたっぷりのそれは、舌が痛むほど熱くて。
新作のマシュマロチョコを頬張れば、口の中で優しくとけていく。
甘いものってどうしてこんなに女の子を幸せにしてくれるんだろう?
きれいにディスプレイされた窓から見えるのは、大好きな季節の、ドキドキする天気。
やわらかであたたかな気持ちのまま、レターセットを引っ張り出す。
シンプルなそれに、愛用してるペンで手紙を書く。
…本当なら、大好きな時間。
そのはずなのに、どうしてだろう。
ペンがちっとも進まない。
書きたいことは山のようにあって、早く文字にしないと崩れ落ちてしまいそうなほどなのに。
淡いピンク色の便箋の上に綴られた文字は、まだ、名前だけ。
いつから、わたしは。





帰り道、心許ない冷蔵庫の中身を思い出して、スーパーへ。
カラフルな棚を眺めながら、今日の夕飯を思案して。
野菜コーナーに並ぶカボチャを眺めて、スープの作り方を思い出してみたり。
あなたが嫌いな野菜と、好きな料理を思い浮かべて、笑いそうになる。
私には"好き嫌いはダメ"なんて言いながら、実は結構好き嫌いの多い人。
子どもみたいなメニューが好きで、拙い料理に笑ってくれて。
2人でキッチンに立つことの幸せを教えてくれた。
待ちきれないみたいに、覗き込んでみたりして。

「オムライスにしようかな…」

落とすようにポツリとつぶやいて、ケチャップを探しに棚を離れる。
思い浮かぶのは、あなたが好きな料理ばかり。
いつから、わたしは。





スーパーを出れば、既に漆黒に染まった空からちらちらと雪が降り始めていた。
後から後から、際限を知らないように落ちてくる雪はどこか優しい。
今住んでいるこの街にも雪が降ると知って、
「雪も寒いのも、苦手」と笑っていたあなたを思い出す。
この地方じゃ珍しく積雪の多いわたしの郷里の話を、少し顰め面をしながら聞いていた。
旅行先はもっと寒いだろうに、風邪なんか引いてないといいんだけど。
そこまで考えて、自分の思考に笑い出しそうになる。
「雪が降れば、気が紛らわせるかもしれない」なんて。
結局雪を見ても思い出すのは唯一つじゃないか。
何を見ても、心に浮かぶのはあなたのことばかり。
ああ、いつから、わたしは。





本当に、バカみたい。
何を見たって、何をしてたって、結局思い出すのはあなたのことばかり。
いつからこんなに盲目になってしまったのだろう?
バカみたい、そう思うのに、考えることを止められない。
これじゃあ本当に諺どおりじゃないの。
でも、それでもいいから。
ねえ、早く、早く、帰ってきて。
いつもみたいに、笑って見せて。
手をつないで、ぎゅっと強く抱き締めて。
わたしにはもう、あなたしかみえないんだから。





耳にあてた携帯電話。
あなたが電話に出るまで、あと少し。
コール音すらもどかしいなんて、ああ、本当にもう。




















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8月にクリスマスの話…。 orz




2007.08.30.




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